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世界選手権六連覇を目指すルーマニアがどの程度の演技をするのか、そして日本のライバル・ブルガリアがクズネツォワとカルペンコを擁してどこまで戦うのかが注目された。

ルーマニアは、今まで散々課題とされた段違い平行棒からのスタート。しかし今回は構成の問題ではなく、ミスが問題となった。ムンテアヌがイエーガー、エレミアが閉脚イエーガーで落下、ロスは低棒飛び越し1/2ひねり倒立で前に倒れてしまい、せっかくSVがそれぞれ上がっていたにも関わらず、難度加点とシリーズ加点の両方を落としてしまった上に、減点を受けてしまった。それでも今回は何とか36点はキープできた。ブルガリアは跳馬で36.162に留まった。

第二ローテーション、ルーマニアはゲントでも得点を稼いでいた平均台であったが、今回はミスが出ていた。エレミアは抱え込み前宙でふらつきが見られ、バンは後方宙返りひねりを伸身で行ってきたが落下し、その他もシリーズ加点が取れなかったりしてSVが上がらなかった。そんな中、ポノールがオノディから後転跳び後方開脚伸身宙返りという組み合わせ、また前宙から片手後転跳び+後転跳びといったシリーズ加点を複数取ってきて9.662をマーク。しかし、本来バンとレオニダもこの点に並ばないといけないところを考えると、決勝ではやや不安の残るところとなった。しかし、ロンダード+後転跳び+3回ひねりのシリーズをほぼ全員が行い、他の国と違う部分を見せた。ブルガリアは段違い平行棒でクズネツォワの8.962が光ったが、カルペンコは入りの伸身低棒飛び越しで落下。そのほかも大きく点を落とし、早くも日本の心配が一つ減った形となった。

第三ローテーション、ルーマニアのゆかはようやく力を発揮できた種目となった。しかし、価値点で高かったのはポノールの9.9くらいで、あとは思ったより低いSVであった。バンは曲を変え、構成も相変わらずE難度を連発したタンブリングで(アラビアンダブル、伸身ダブル、月面宙返り)、観客も盛り上がったが価値点が屈身ダブルでラインオーバーがあり9.287に留まった。ムンテアヌはテンポから即3回ひねり、二回半ひねり、カテッテジャンプ一回ひねりなどで加点を取り、9.412(SV9.8)をマークした。最後のポノールは屈身月面、二回半ひねり+前方伸身宙返り、3回ひねり、屈身ダブルといったタンブリングに体操系でも加点を取り、9.9のSVを出し、9.537を出した。

第四ローテーション、ブルガリアはやはり「国産」選手が点を伸ばせず、カルペンコが最後で何とか8.975を出したが、体操系の加点と、シリーズ加点がまだ取れてなく、SVが低くなり、今後、どこまで上げれるかが課題となった。

第五ローテーション、ルーマニアの跳馬はユルチェンコの一回半ひねり、ルコーニが最低レベルで、ムンテアヌはユルチェンコ二回ひねり、ロスは種目別用にユルチェンコ二回ひねりとツカハラ二回ひねりを見せた。それぞれ9.475と9.450で、やや姿勢欠点があったと思えたが、種目別のメダルが狙える位置につけた。

ルーマニアは結果的にアメリカを僅かに上回ったが、個人総合ではバン、レオニダがミスで伸びず、圧倒的なエースがいない今の現状を物語っていた。

また、この班でキューバのゴンサレスが跳馬でユルチェンコ一回半で9.300、ゆかでSV10点で9.287をマークし、注目を浴びていた。

<<第六班>>

日本女子の五輪出場の最大の鍵となった北朝鮮の演技、この班はこの注目のみであった。レポートはそこに集中させて頂く。題して「北朝鮮演技観戦物語」・・・。

そもそも、北朝鮮の段違い平行棒からのスタートというのは、彼女たちにとって最高についていたことであったと思う。彼女たちの得意種目だからだ。最初のカン・ユンミこそトカチェフで落下し、7.812からのスタートだが、その後、ソ・ジョンオクで盛り返し、キム・ウンジョンは振り上げ倒立一回半ひねりから始まり大逆手車輪一回ひねりの連続から閉脚イエーガー、低棒飛び越し倒立+低棒振り出し高棒懸垂、そして車輪一回ひねりからトカチェフ、最後に伸身ダブルという構成で9.425をマーク。その後、ハン・ジョンオクはパク宙返りで詰まったがそれでも価値点は10点で9.025をマークし、最後のピョン・クワンスンはエジョワの行う車輪一回半ひねりから大逆手で前方宙返りひねり低棒懸垂という技も入れ、その他もアジア大会時と同様の構成で素晴らしい出来で9.475をマーク。トータル37.187と圧倒的な点を出した。

こうなると北朝鮮に日本が勝てる条件というのは平均台で北朝鮮がミスを連発する・・・これしかなかった。ゆかだけでミスがそこまで出ることはなかなか考えにくく、跳馬は少なくとも35点を下回るレベルではないので、とにかく平均台の失敗が出るのかどうか、申し訳ないが祈るような気持ちで見ていた。

アジア大会を見ていたので、彼女たちの平均台が比較的安定していないのは予想できた。「少なくとも二人は必ず落下する・・・」そう予想した。その気持ちが通じてしまったのか、最初のソ・ジョンオクは側宙で落下し、7.95としてしまう。キム・ウンジョンは落下こそなかったが、硬い動きでシリーズ加点が取れないくらいに停滞が多く、SVが9.0となって8.225に留まった。ここまで何となく運が向いてきた気になったが、その次のリ・ヘヨンが非常にきれいなポパジャンプなど特に大きな問題なく演技を通し、8.675と挽回した。ここからは徐々に盛り返してくるのかとも思われたが、ピョン・クワンスンがまたも側宙で落下、片手後転跳びからのシリーズも途中で止まり、7.912となってしまった。ここで二人が7点台、そして、8.225も一人。最後の一人への期待は否応なしに高まった。ハン・ジョンオクは、最初のロンダード+伸身宙返りで落下。その後も不安定な演技となり、結果、北朝鮮は平均台で33点を超えることができず、この段階で上に69.954(手計算)となって、その後のゆかと跳馬で72点、一人平均9点が必要な状況となった。ゆかに関しては、一人9点というのはあまり期待できるものをもっていないと思われたが、跳馬は9点ギリギリは最低出せるので、このゆかの出来がどの程度になるか、最大の山場を迎えることとなった。

最初のソ・ジョンオクで、ゆかの曲がキム・ウンジョンの曲と間違ってかかってしまう。その後かなり待たされ、その間ソ・ジョンオクはコーナーでずっと直立して、その場を離れることはなかった。今思えば、一旦集中した気持ちをコーナー上でキープして、どれだけ待たされても途中で緩めることをしたくないという気持ちがあったのだろうか。その状況にアメリカの観衆が反応しない訳はなく、場内からかなりの声援が飛んだ。それに乗り、演技はまずまずだった。しかし、抱え込みジャンプ二回ひねり、3回ターンで軸ぶれを出し、8.662にとどまった。ピョン・クワンスンは、最初の月面の着地がややつっぱり、ねこジャンプの二回ひねりでひねり不足、水平ターンでもかかとがついてしまい、SV9.5で8.5に留まった。二人が9点をかなり下回ったので、これからの三人が9点を上回らないといけない状態となった。しかし、ここからの三人はアップでかなりの大技を連発していた。まずキム・ウンジョン。最初にアラビアンダブルひねりから切り返し前宙に繋げるという、アジア大会時からは考えられないものをアップで成功させていたが、演技でも見事に成功した。ただし、前宙でやや流れ着地が低くなり、実施減点が出て8.875に留まった。こうなると流れは完全に悪くなる。カン・ユンミは伸身ダブルから切り返し前宙をアップで行っていたが、本番では前宙で低くなりまた回りすぎて大きく一歩前に出た。また、一回半ひねりから3回ひねりにもつなげたがひねり不足があり、これまた実施減点を多く作りSV9.7で8.85に留まった。これでゆかでは平均9点はほぼ不可能になったわけだが、最後のリ・ヘヨンは、最初のアラビアンダブルでつっぱり、その後もしりもちを着くなど演技に精細を欠き、この段階で北朝鮮のゆかが34.887と伸びず、トータル104.846で、その後の跳馬で37.100、平均9.25以上を出さないと日本に追いつかない状態となり、ほぼ日本の勝利が見えたように思えた。

ここで北朝鮮はローテ間の休憩に入る。このローテでメキシコのマガーニャが、デブレセンでで種目別決勝に残った素晴らしいゆかを見せた。伸身ダブルから切り替えし前宙、アラビアンダブル、ねこジャンプ二回ひねりからカテッテジャンプ一回ひねり、屈身月面、抱え込みジャンプ二回ひねり、そして最後に屈身ダブルとかなり内容の濃いものを見せて9.162をマークした。

最後のローテーション、アジア大会では北朝鮮はルコーニを連発していた。今大会、ルコーニで点を伸ばしている選手は少ない。逆にユルチェンコ系一回半では点が出ている。予想では、9点は出ても、9.2以上は厳しいと思えた。最初のキム・ウンジョン。やはりルコーニであった。点を見逃してしまったが、予想通り・・・と更に日本の勝利の確信を高めた。ところが、キム・ウンジョンは北朝鮮の選手団席に向かって笑顔で手を振る。コーチ陣を始め、自分たちの演技が悪く、五輪出場権が微妙で、しかも、跳馬で自信がなければその笑顔が出るはずがない・・なのに笑顔が出ているのは何故?この笑顔の意味がその後分かることとなる。その次のカン・ユンミは何とユルチェンコ二回ひねりを行った。9.262・・・何とこの点数がキープされれば37.1は超えてしまう可能性がある。不安が数百倍に上がったといっていい。ピョン・クワンスンも何と同じくユルチェンコ二回ひねり。9.275に上げた。ますます不安が高まる中、その次のカン・ユンミの技番号が4606と出ていた。左から二つ目の数字で価値点がある程度分かるのだが、6はSEの価値のある技。「・・・なに?SE?」心の中の動揺は徒事ではなかった。そして彼女が行ったのはユルチェンコ二回半ひねり。「アマナール」という名前の、10点満点の技であった。会場は大歓声であった。実施そのものは横にも一歩出たようなものであったが、大きな乱れはなく、相当自信があったと思えた。そして出た点数は9.600。前の二人の9.25以上の点数からして、この点数で北朝鮮が日本に勝ってしまった。そして最後の選手、すでに名前を確認する余裕をなくしていたが、ルコニーの伸身(価値点9.8)を行い、9.237をマークした。こうして北朝鮮は過去に類を見ない価値点の高い技を四人持ってきたこととなり、37.375(手計算であるので間違っている?)という、最高の跳馬の団体得点を出してしまった。

日本女子にとって、この北朝鮮の点で、団体出場権への道はほぼ絶望的となった。残念だが、北朝鮮のこの一年の成長は驚くべきものがあり、日本はそれを素直に認めないといけないばかりではなく、更なる課題、目標を感じることとなった。同じアジアの中国、北朝鮮がここまでできるのであるから、肉体的な限界というのはない。どういったトレーニングを行えば追いつけるのか。日本の環境では難しいことだが、諦めるわけにはいかないだろう。


段違い平行棒はさすがにレベルアップさせていたルーマニア

カルペンコ(左)やクズネツォワ(中央)の加入があったものの上位進出出来なかったブルガリア

跳馬がまさかここまでレベルが高いとは・・・という北朝鮮

段違いの三回宙はお預け・・・メキシコのマガーニャ。意外と大柄です。