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決勝戦は、今までと違ったローテーションの組み方となった。上位四カ国と下位四カ国に分かれ、上位グループはゆかから、下位グループは鉄棒からスタート。そして、それぞれ一カ国ずつが演技するので、ローテーションとしては、一種目で四つあることとなる。そして、最終種目で、一番最後に予選一位の国が演技するようにスタート種目が調整された。そして、アップはなく、サブ会場でアップ後入場し、一番最後の選手は、僅か三人とはいえ、一番長い時間待つこととなった。

第一種目

最初に登場したのがアメリカ。予選でミスを出したモーガン・ハム、そしてエースのポール・ハムは伸身新月面など、確実にまとめて、高得点を乱発。28.275という最高のスタートを切った。鉄棒の韓国はいきなりミスが出てしまい、成功したイ・スンスンも9.487に留まる。

ルーマニアのゆかは、スチウが前宙転でラインオーバー、ドラグレスクが二本目のシリーズのラストの前宙一回ひねりで軸がぶれて着地が完全に乱れ、8.625に留まった。日本にどれだけ追いついてくるか気になっていたルーマニアだが、稼ぐべきところでまさかのミスが出て、早くも暗雲が立ち込めた。ウクライナはベレシュが大逆手車輪一回ひねり大逆手で落下。8.550に留まった。

中国は楊威が課題の二本目のシリーズである二回半+前宙+前宙一回ひねりをきれいに決めて、刑傲偉、李小鵬もミスなく、アメリカには及ばないものの28.162とした。思ったより点が出なかったと思われた。フランスはカルバネンコ、ギルとミスが続き、完全にメダル争いから後退。

そしていよいよ日本。日本と同じローテで回るのは銅メダル争いの一番のライバル・ロシア。偶然にも一騎打ちの様相となった。鹿島は一本目でまたもラインオーバー。しかし、その後の着地を決め、そして得意のフェドルチェンコ、ゴゴラーゼもきれいに決めて、9.125を出した。SVが9.6なので、よくここまで出してくれたものである。クリュコフは途中で停滞があったようで、9.225とした。日本の二人目の冨田も最初の二回半+前宙ひねり+二回ひねりで完全に回転が不足しかけたが、見事にカバーし、手を着くまではいかなかった。最後の月面では逆にラインオーバーとなったが、価値点10点で、9.087となった。あれで9点に留まったのも日本にとってはかなりありがたかった。ボンダレンコはコバチやトカチェフ連続を決めたものの、SVが9.8で9.425に留まった。塚原は新月面でラインオーバーとなったが、9.250をマーク。これで何とか27点をキープし、うまく最大の関門を越えた。ネモフは団体戦同様、離れ技のみで加点を取る構成を見事に決めて、9.712をマークし、28.362でトップに立った。

第二種目

上位グループははあん馬、下位グループはゆかということで、ルーマニアはこの種目で巻き返したいところ。ポトラ、スチウまでうまく決めてきて、いよいよ最後のウルジカ。今までの試合で大きなミスをほとんど見たことがない彼だが、今回、最後のフロップ部分でまさかのバランスを崩すミス。SVも9.8に下げ、9.437に留まった。これでルーマニアも完全に勢いを失った。ウクライナはゾズリアが前宙ダブルでラインオーバーをするなど、鉄棒のベレシュのミスを挽回するところまでいかなかった。

中国はこの種目絶対の自信があるメンバーを三人集めた。ワールドカップ銀メダリストの刑傲偉、アジア大会金メダリストの騰海濱は相変わらずの素晴らしい演技で(構成はとても似ている二人であった)、最後の「あん馬の申し子}肖欽を迎える。しかし、何としたことか、マジャール移動でまさかの落下。ウルジカといい、信じられないミスであった。フランスはSVも低く、カルバネンコは前宙ダブルでラインオーバー。フランスも鉄棒のミスを挽回することはできなかった。

そして日本は、冨田がウゴーニャンとロシアンのところで乱れはなかったがやや硬くなり、9.375に留まった。塚原は交差ひねりで少し乱れて9.487に留まった。少し緊張感を隠せない演技が続いたところで、世界選手権銅メダリストの鹿島が登場。順調に技を次々に決めてきたが、最後の倒立ひねり移動の降りで、少しバランスを崩したのか、いつもよりもかなり遠い位置での着地となった。しかし、うまく見せて9.637をマーク。得意種目では28点以上がほしい中、ここでも無事に乗り切った。ロシアはネモフがまさかのミスを続けた。入りの伸身新月面でラインオーバー。二回ひねりから前宙伏せのところもミス。SVが9.9となってしまい、9.212に留まった。これで日本はロシアに並んだ。

アメリカはモーガン・ハムが途中で少し乱れたが9.487を出し、徐々にアメリカに対する高めの点数の傾向を感じつつあった。マックルアはウゴーニャンでミスをし、フロップと降りでもミス。9.112に留まった。ポール・ハムは9.500としたものの、アメリカはこの苦手種目で一つ低い点を抱えることとなった。韓国はキム・デウンがこれまた前宙転でラインオーバー。ユー・ウォンキルも後方一回半+前方一回ひねりの後が続かずSVを9.5に下げて9.025。ヤン・テヨンも側宙でまさかの低い着地とミスが続いて、鉄棒の低い点数を盛り返すことが出来なかった。こうして、ロシア以外の下位グループとルーマニアがこの段階で最初の種目のミスを挽回するまでにはいかず、メダル争いは日本、アメリカ、、中国、ロシアに絞られた。

第三種目

上位グループがつり輪、下位グループがあん馬を演技。中国は黄旭の9.662を筆頭に、危なげなく高得点を連発。徐々にリードを広げだした。フランスはカシミールが頑張って9.575としたが、ベニーが落下してしまい、ミスがまた出てしまった。

日本は塚原がきれいにまとめて9.537、冨田は着地を決めて場内から大歓声を受け、9.650を出し、最後の山田は最後の着地一歩が悔しい9.612とした。つり輪の点に限れば中国との差は僅かで、今回のメンバーの強さを感じた。ロシアはゴロツツコフがウゴーニャンとロシアンの部分で足割れを見せ、ポドゴルニ、クリュコフはまとめたものの9.5以上は出ず、日本と差がついた。

韓国はイ・スンスンがロシアンと交差ひねりでミスをし、ヤン・テヨンも交差の入りでミス。あん馬のエース、シンは団体戦と同様、またもマジャール移動で落下。韓国もミスが止まらない状態となった。団体決勝のルールの怖いところとなった。アメリカは、一人目のバブサーが一人目とは思えない出来で、降りも伸身新月面のSEを決めていきなり9.612をマーク。その後のガトソンは中水平の体の位置が素晴らしく、とても力強い演技で、着地もぴたりと決めて9.712をマーク。雰囲気が最高潮になる中、ウィルソンも危なげなく決めて、ガトソンを更に上回る9.737をマークした。※正直なところ、ウィルソンの中水平などを見ると、やはり点が出すぎという気がした。日本の美しい姿勢が上であってほしかった。

ウクライナはまたもベレシュがミスをした。降りのひねりながら3/3移動をするところで最後でバランスが崩れて頭から落下するようなかなり危ない着地となった。ベレシュは予選から本当に元気がないので残念な気がした。ルーマニアはドラグレスクがつり輪でも強くなったといわんばかりに9.600を出し、セラリウ、ポトラもまとめてきた。セラリウは中水平などが沿った実施となり、決めも甘かったので点が出なかったようだ。この段階より、中国、アメリカ、日本、ロシアの順位が続くこととなった。

第四種目

上位グループは跳馬、下位グループはつり輪を行った。日本は、冨田、山田とカサマツ一回半ひねりを行うので、前方系の着地をどのように決めてくるか、ここが鍵となった。一人目の塚原はユルチェンコ二回ひねりをぴたりと決めて、観客も大いに盛り上がり、9.425を出す。山田はやはり前方系の着地の難しさか、後ろに大きく一歩出てしまったが、9.437で留まり、最後の冨田を迎えた。冨田は団体戦でミスをしているので、本人も心配だったはずだが、非常にきれいに決めて9.550を出した。この跳馬をこの点数で終えたのも非常に大きい。残すは得意種目のみとなった。ロシアは、ポドゴルニが3回宙返りで手を着くミス。ゴロツツコフも点が伸びず、ロシアとの差を1.256に広げた。

アメリカはポール・ハムがいきなりユルチェンコ二回半ひねりを持ってきて、9.562を出す。マックルアは前転跳び前方伸身二回ひねりだったが、着地がやや横に乱れてしまう。しかしそれでも9.525を出す。この辺りもやはり高すぎる印象であった(といっても日本の山田も高かったが)。そして、モーガン・ハムは表示がカサマツ一回半ひねりであったにも関わらず、合わなかったのかカサマツ半ひねりになってしまう。一応場内のダイナビジョンに繰り返し彼の演技が出てきたのでひねりの数はしっかり数えられた。それでもアメリカは日本をリードする得点となった。韓国は得意のつり輪でしっかり点を稼ぎ、中国をも上回るような演技を連発した。

ウクライナも同様で、ミェジェンチェフが9.700、ゾズリアが9.687として、かなり挽回してきた。ルーマニアはセラリウがカサマツ一回半でしりもちを着き、スチウは何とか同じカサマツ一回半ひねりを決めたものの、団体戦で全体の最高点を出したドラグレスクが勢いあまって後ろに大きくしりもちを着き、9.200に留まった。ドラグレスクが得意の二種目、ウルジカもあん馬でミスと、ルーマニアにとって、決勝戦の三つの失敗はあまりにも大きかった。

中国はこの種目で李小鵬と楊威を擁するので、かなりリードを広げたいところ。しかし、あと一人の刑傲偉がモーガン・ハムと同様、カサマツ一回半のひねりで一回ひねりに留まり、9.250に留まった。二人もひねりでミスが出たのも団体戦の怖さだと感じた。その後の二人は全く問題なし。楊威はカサマツ二回ひねりで9.750、李小鵬はロンダードからのヨー2で9.762をマーク。ほかの国がこの種目でここまで点を上げれないので、この二つの点は中国に圧倒的なリードを与えた。フランスはつり輪の割には全く点を伸ばせなかった。

第五種目

上位グループは平行棒、下位グループは跳馬へ。アメリカが平行棒のスタートとなったが、ポール・ハムがアームモリスエの後のカットの部分で足が当たりバランスを崩す。9.425に留まった。続くウィルソンは棒下宙返りやツイストの倒立があまりはまらず、これも9.550に留まった。しかし、最後のガトソンは各高難度の技でぴたりと決めてきて9.725を出した。韓国は最初のユー・ウォンキルの前にスコアボードの問題が起こったのか、かなり待たされ、そして前転跳び前方二回ひねりで完全に着地で失敗。8.700としてしまう。ヤン・テヨンはカサマツ一回半ひねりを決めたものの、チョ・ソンミンがヨー2でミスをして、9.162に留まった。敢えて大技を狙った作戦が、結果的に裏目に出た形となった。

ウクライナはスベトリチニ、ゾズリアとローチェを持ってきて、そしてしりもちを着いてしまった。この決勝戦においては、ローチェを行うのはかなりの賭けと感じた。ルーマニアはポトラがビロゼルチェフのあとの開脚浮き腰上がりで崩れてしまい、屈身二回宙返り降りもミス。ウルジカも9.425に留まり、ルーマニアもミスが止まらない状態であった。

中国は黄旭がヒーリーの前後でバランスが崩れるなどの細かいミスが出て、9.425としてしまった。そして、二人目の騰海濱は団体予選でSVや決定点がかなり低く評価されていたのだが、中国はメンバーに入れてきた。実施そのものは着地で二歩動いてしまったが、構成は車輪ディアミドフからベーレなど、面白いものであり、果たして今回は銅評価されるのかと注目されたが、結局SV9.9で9.425をマークした。この間もかなり長く、李小鵬は、その間バーの調整(炭酸マグネシウムを丹念に付ける)を繰り返し行い、そして緑ランプが点灯した後も、しばらく調整していた。ようやく演技が開始されると、全く危なげない演技。自信に満ち溢れた演技で、最後の屈身ダブルまでぴたりと決まり、9.762を出した。フランスはギル、カルバネンコと決まったが、マレーがミスをして点を落とした。

そしていよいよ日本。この種目、中国以上の点が期待できるほどであるのだが、最初の鹿島は全く危なげなく、予選でミスしたティッペルトもきれいに決めて9.712をいきなり出す。同時にロシアは跳馬だったのだが、ボンダレンコはウクライナがミスを連発したローチェを見せ、9.575とまずまずの点数を出す。ネモフはロンダード半ひねり前方伸身一回半ひねりを見せ、9.512。冨田は鹿島と同様に棒下ひねりも素晴らしい出来で、場内からかなり注目されたが、最後の屈身ダブルで思わぬしりもち。ここに来て硬さが出てしまった。しかし、それまでの素晴らしい完成度に、得点は9.175に留まる。(着地時にほぼ同時にロシアのゴロツツコフがクエルボダブルで頭から落ちた状態に近い非常に危ない着地で、場内から思わず大きなため息が出てしまった。)最後の塚原は、どこも減点しようがないぐらいの素晴らしい出来。着地まで完璧で、何と9.800を出す。観客席で「9.800を出せ」と駄目元で念じていたのが現実となり、かなり興奮する瞬間であった。この段階でアメリカとの差は僅か0.362となり、最終種目、落下はおろか、少しの停滞も許されない二位争いとなった。しかし、四位のロシアとは大差になっており、メダルをほぼ確定。このリードが選手に与える「メダルへのプレッシャー」を取り除いてくれるものとなった。

第六種目

いよいよ最終種目。上位グループが鉄棒、下位グループが平行棒となった。まずはルーマニアがようやくノーミスで通し、ウルジカの9.625を始め、まずまずの点数が続いた。ウクライナはゾズリア以外がミスをして、最後を締めくくることができなかった。

中国は追い上げるアメリカ、日本を前に演技することとなったのだが、黄旭が9.637、刑傲偉はシュタルダー一回ひねりのところでややミスをして、SVも9.8と低く、9.525に留まった(SVを見てない場内からはブーイングが起こった)。そして騰海濱は、アドラー一回ひねりからエンドー一回ひねりなどに繋げるシリーズで観客よりも、観客席で見ていた関係者に大いに受け、9.725をマーク。この段階で中国にアメリカ、ロシアが追いつくのがほぼ不可能になり、中国の優勝が決定。フランスの演技は見ることが出来なかった。

そして日本。鹿島がトップで、平行棒同様素晴らしい出来で、その美しい演技はアメリカ人にも評判がよく、周りの方々よりかなりの賞賛の言葉を受けた。塚原はコールマンの後のリバルコに敢えて挑戦したのか、あるいはミスでひねりが足りなくなったのか、コールマンで持った後、すぐに車輪跳び一回ひねりとしたが、軸がぶれて一回ひねりとなり、それが影響してSVが9.9で9.362となった。しかし、アメリカの観客は日本の体操を認めだしたのか「どうして低いの?」という声も私に出してくれていた。そして冨田は内容的にはほぼ完璧だが、本来構成に入るべき、閉脚シュタルダー一回半ひねりではなく、半ひねり大逆手に変えてきて、SVが9.8となり、9.562に留まった。これで、日本は結果的にはアメリカに銀メダルを簡単に与えてしまう点にしてしまったが、この試合、大過失が冨田の平行棒の着地一つという、素晴らしい戦いを見せてくれた。対するロシアは、ポドゴルニ、ボンダレンコ、ネモフとベテランが最後に踏ん張りを見せ、ネモフの演技が終わるとアメリカの観衆は大喜びしていた。

最後の最後のローテーションで、日本のメダルの色を決めるアメリカの演技となった。最初の最初のマックルアは、閉脚シュタルダーひねりのところでかなりバランスが崩れて、演技がうまく流れなかったが、それでも9.525をマーク。ここまで来ると、大過失がない演技にはどんな点数が出ても驚かなくなった。ウィルソンは伸身コールマンをかなり雄大に決め、着地も止まり、大歓声が起こる中、9.787が出た。そして最後のポール・ハム。彼がミスをすればこれまでのアメリカの点数が台無しになる訳だが、やはりそれなりの緊張感が彼を襲うこととなった。伸身トカチェフは団体戦で落下したところであったのだが、それを決め、そしてここからC難度の離れ技の連続で格上げ&シリーズ加点を狙うところとなるのだが、本来四つ目にギンガーを持ってくるところを行わず、この分の影響でSVが9.8となり、9.475に留まった。しかし、落下するよりも数段いいこの決断は、アメリカの銀メダル獲得の最後の鍵となった。韓国は最後の最後、チョ・ソンミンの着地など、またもミスが相次ぎ、残念な結果となった。

日本はこれで、95年の鯖江以来、8年ぶりの団体戦のメダルを獲得。海外で行われた世界選手権では、83年のブダペスト以来20年ぶりとなった。選手の表彰台での動きがぎこちなかったのが微笑ましい、そして逆に今までの時間の長さを感じた。