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レポートの始めに書くのもなんだが、先に言わせてもらうと「失敗が多すぎて、どの国にチャンスがあるのか、あるいはどの国が強いのか、結局最後まで分からなかった」ということ。男子はそれなりに、上を争っていた国はいい試合をしたが、女子はそれがなかった。また、男子は、種目が終わる切れ目がはっきりしていたが、女子は流れ作業で入っていたので、順位確認もままならない、慌しい進行で、これも「どこが勝つか分からない」一つの要素であった。

第一種目

男子同様、上位四カ国と下位四カ国に分かれ、それぞれ跳馬と、ゆかというスタートになった。最初に登場したのはアメリカ。補欠から一気に予選でアメリカ選手の最高順位となったメメルがトップだったが、ユルチェンコ一回半ひねりで9.275という順調なスタート。パターソン、シュワイカートと同じくユルチェンコ一回半ひねりで、パターソンは9.237、シュワイカートは着地を見事に止めて9.325をマークした。オーストラリアはゆかからで、アーチャールッソとあまり点が伸びずにエースのスレーターに繋いだ。スレーターはテンポから即3回ひねりでひねり不足と着地が大きく後ろに乱れ、そして3回ターンもひねり不足になり、SVといい、実施減点といいどの程度惹かれるのかと思われたが、SVは9.8で9.325をマークした。この辺りの実施減点とSVの兼ね合いが今回の大きな鍵となるような気がした。

六連覇を目指すルーマニアは、ポノールがアメリカの三人に続いてユルチェンコ一回半ひねりで9.287として、その後もムンテアヌ、ロスとユルチェンコ二回ひねりを決めて、それぞれ9.300と9.362をマークした。同時に登場したスペインはゴメスのみならず、モレノが体操系とシリーズで加点を取り、SVを10点として9.525をマークした。そしてゴメスはさすがに世界チャンピオンの演技といった感じで、今回はターンが3回半となってしまい(恐らく四回を狙っていたはず)他にも、最初の月面で後ろ一歩が大きかったが、これまたSVを10点として、9.612をマーク。トータルも28点を超えてスペインがまずトップに立った。

この次に登場した中国は、跳馬で康欣が前転跳び屈身前宙半ひねりが横にずれてしまい、9.087とした。SVが低い彼女が登場したのも少し不思議であったが。張楠はユルチェンコ一回半を無難に決めてきたものの、最後の王が、ユルチェンコ二回ひねりで回りきれず、前に手を着いてしまい、8.737に留まった。ロシアはミスがなければ優勝も狙える・・・というレベルであるが、一人目のシェフチェンコワが二本目の二回半+伸身前宙で二回半の着地後、勢いがありすぎて蹴りが前に流れ、伸身前宙が頭すれすれになるという状態で大きく乱れ、3回ひねりではしりもちをついてしまった。この得点が7.575で、ロシアは早くも優勝争いから脱落した。その後、パブロワが優雅な演技を見せてくれたが、テンポからの3回ひねりで横にずれるなど、実施減点が見られ、9.287に留まった。最後のホルキナもテンポから3回ひねりでひねり不足と着地の安定性がないと思えたが、9.650をマーク。ホルキナのこの得点があるだけに、一人目の失敗はあまりにも痛かった。

ウクライナは予選でも好調であった跳馬で、ユルチェンコ一回半ひねりをプロクリナ、シロババが、前転跳び伸身宙返り一回ひねりをクバシャが行ったが、シロババの着地が低く、9.050としてしまった。クバシャは9.337をマーク。ブラジルはゆかで、コミンの3回ひねりがひねり不足であった気がしたが、何とか9.237をキープ。最後のドス・サントスにつなげたが、前宙からロンダード+後転跳び+アラビアンダブルで思わぬしりもち。団体では見事に決めて高得点を出していただけに残念な結果となった。それでも8.900を出していた。

第二種目

トップに立っているスペインが跳馬に入ったが、ゆかで高得点を出したモレノがルコーニで回りきれずに8.462に留まり、ゴメスもユルチェンコ一回半のひねりで後ろに二歩動いてしまい、9.187と点を伸ばせなかった。これでスペインはゆかの貯金を使い果たしてしまった。ルーマニアも段違い平行棒で苦戦。予選でもミスが出ていたのだが、今年はまだSVが上がったにも関わらず、他国が10点の構成にする選手が複数いるのに対し、ルーマニアはゼロ。この分で、例えノーミスであっても差が出てしまった。バンは組み合わせの加点が少なくて9.162に留まり、エレミアは実施減点を多く取られ9.025としてしまい、そしてレオニダは、低棒からの振り跳び高棒移動で乱れて、高棒でのけ上がりがうまく上がらず停滞し、8.987に留まった。

ロシアは、ザモロドチコワが最初にユルチェンコ二回ひねりを決めて(団体戦より着地が低かったが)9.362を出し、パブロワも同じユルチェンコ二回ひねりできれいにまとめ、9.400をマーク。そしてホルキナもホルキナ跳びで前に一歩出たが9.475まで上げてきた。対する中国はここで一気に貯金を作っておきたいところ。リ・ヤaは降りの屈身前方二回宙返り半ひねりをきれいに決め、とファン・イェは大逆手エンドーと片手軸の大逆手車輪一回ひねりを繋げて場内からため息が出ていたが、振り跳び高棒移動で落下。SVは10点を保ったが、9.025に留まった。リン・リは、パク宙返りの後の倒立移行で戻ってしまい、9.450に留まった。中国はこれで二種目、しかも、あまりミスをしてはいけない種目で大過失を作ってしまい、悪いムードを作ってしまった。

ブラジルは、ドス・サントスがユルチェンコ一回半を、ソウザがユルチェンコ二回ひねりを持ってきたが、回転不足ぎみで着地が動いてしまい、あまり点を伸ばせなかった。ウクライナはクラスニンスカが閉脚シュタルダー系の技で加点を稼ぎ、一人めで早くもSV10点で9.562をマーク。二人目のコジチにも期待がかかったが、大逆手エンドーから片手軸の大逆手車輪一回ひねりの後のイエーガーで落下。8.600に留まった。最後のヤロツカは大逆手エンドー系をうまく組み合わせてこれもSVを10点とし、9.550をマーク。コジチの落下が実に残念な結果となった。

アメリカは、団体戦でも高得点を出したメメルからスタート。ヒンドルフからパクにつなげ、低棒でシュタルダーの半ひねりとシュタルダー一回ひねりを組み合わせ、そして最後はアドラーから前方二回宙返りという、他にはあまりみないダイナミックな組み合わせでいきなり9.637をマーク。出すぎといわれるかもしれないが、オリジナル性を感じる演技にはある程度の点数はだしてあげてほしいので、納得できた。その後、団体戦で失敗していたシュワイカートは今度は見事に通して、これも9.600をマーク。彼女もヒンドルフを入れていたのだが、非常に大きさの出る技でダイナミックな演技となった。そして最後のヴァイス。何とゼッケンがレオタードに張られておらず、急遽手書きで書いた紙を貼っていた(写真)。それが影響したとはいえないが、閉脚イエーガーで落下。8.875に留まり、アメリカにまでもミスが出てしまった。オーストラリアの跳馬は、ルッソが前転跳び前方屈身半ひねりで9.112で留まり、アーチャーとスレーターもユルチェンコ一回半ひねりで何とか9.2以上を出し、無難に乗り切った。

第三種目

ロシアはエジョワ、ホルキナと段違い平行棒を得意とする選手がいるので、ここで一気に挽回したいところであったが、エジョワが思いのほか伸びず、9.300に留まり、パブロワにいたっては、SVが9.5とカウントされ、9.100しか出ない。そしてホルキナだが、今回もリチナを省いたが、シュタルダー一回半ひねりの部分が倒立にはまらず、この解釈の部分で問題となりそうであった。しかし、それよりも問題だったのは、パク宙返りの後、シュタルダー一回ひねりで前に倒れてしまい、うまくそこからフットに繋げて減点はさけたが、おなじみのホルキナ2を行うことが出来ずに、価値点を9.7に下げて9.250にしてしまった。ここまでミスが続くと、来年に向けて相当立て直す必要があると思えた。中国は得意の平均台となり、これまでのミスを挽回したいところ。そして実際にうまくいったと言えよう。一人目のリ・ヤはオノディ+前方開脚伸身宙返り+後転跳びのシリーズとポパジャンプをきれいに決め、9.487(SV10)をマーク。二人目の張楠は更にまとまった演技で交差からの輪とびなど、高難度のジャンプもきれいに決めて、9.625まで伸ばした。しかし、最後のファン・イェが羊跳びや交差からの輪跳びでふらつきが目立ち、着地がきれいに止まったものの9.475をマークした。これで中国は28.587として、上位争いで優位に立った。

ブラジルは、段違い平行棒で、ロドリゲスがやや硬い演技であったが、コマネチ宙返りなど、SVが10点ある構成で9.362をマーク。モリナリは大逆手エンドー一回ひねりを入れてきて、降り技も大逆手からの前宙ダブルで9.312をマーク。最後のイポリトは、車輪一回ひねりや大逆手車輪半ひねりのC難度をD難度技にうまく繋ぐ演技構成で価値点を9.8まで上げて、9.275をマークした。ウクライナの平均台は、クラスニンスカが、倒立一回ひねりから足を抜いて脚上挙につなげるという珍しい技を最初に入れて、更に水平ターン+前方開脚伸身宙返りに繋げる組み合わせも見せて、高得点が期待されたが、降りで手を着いて、8.800に留まった。コジチはここでも後転跳び一回ひねりで落下し、8.525に留まる。そして、最後のヤロツカは最初の後方開脚伸身宙返り上がりで落下。8.562としてしまう。ウクライナはこれでメダル争いから後退してしまった。

オーストラリアは、段違い平行棒で、一人目のダンが、恐らく世界大会で始めて「まともに」とおった演技を見せてくれた。今までどこかでミスが出ていた演技が続いていただけにこの価値は非常に大きかった。しかし、得点は9.375(SV9.9)に留まった。ルッソは、フットサークル系の技で難度を取りいい演技だったが、これも9.4(SV9.9)に留まった。しかし、最後のスレーターは、車輪一回半ひねりからイエーガー、ホップターンからギンガー、車輪一回ひねりから月面降りを次々と決めて、SVも10点にして9.587をマークした。アメリカは、平均台を何とかノーミスで終えたいところであったが、ヴァイスがなかなか演技を開始できず、嫌な雰囲気となったが、段違い平行棒と違って、ここではまず、最初の後転跳びから後方抱え込み宙返り一回ひねりを決め、その後のシリーズ系もまとめてSV10点で9.512をマークした。これで勢いに乗れたのか、メメルは更に平均台でも独特の高難度を連発した。前方宙返り半ひねり+後転跳び(0.1加点)、イリュージョンターン(新体操でよく見るターン・・・D難度)、その場でのアラビアン宙返り、独特のI字バランスと、非常に斬新な構成で、SVも10点、得点は9.575とした。そして最後のパターソンは、前宙の後の羊とびでふらつき、この部分が影響したのかSVを下げて、9.312に留まった。しかし、この種目でアメリカは28点を大きく超え、トップに立ち、優勝に向けて得意のゆかを残すのみとなった。

スペインは、段違い平行棒でヘネールとゴメスがSVを10点にして、9.450と9.500をマーク。あまり得意のイメージがないこの種目をノーミスで終え、アメリカの次の二位争いに残った。ルーマニアは得意種目である平均台で一気に貯金を作っておきたいところであったが、エレミアは三つの跳躍技の組み合わせの加点を三つ入れて、SV10点を狙ったが、ジョンソン(D)の部分で認められなかったのか、SVは9.9に留まり、9.462となった。ポノールは交差からの輪跳びで角度が足らず、また、オメリアンチクの部分もやや乱れ、SVが9.7に下がり、9.237にとどまった。最後のバンは、予選で落下した伸身宙返り一回ひねりをどうするのか注目されたが、今回は見事に決めて、他の部分もほぼパーフェクトであったが、交差ジャンプから片手後転跳びの後、本来は後方宙返りにしてシリーズ加点を取りたかったところで後転跳びにしてしまったように思えた。ビデオで見れないので確認が出来ないのだが、この部分の0.1の加点がなかった為に、SVが9.9となり、得点も9.537に留まってしまった。しかし、ルーマニアは何とか三位につけることが出来た。しかし、3位争いにルーマニアからスペインまで、僅か0.074しかなく、ルーマニアがメダルを失う可能性まで出てきた。

第四種目

さていよいよ最終種目、これほど色々とミスが出て、展開が予想できない試合も珍しいわけだが、男子同様、ゆかは今回は必ずしも「安全な」種目とはいえないので、上位グループで何があるか、想像も出来ないといえよう。

平均台のブラジルは、ここに来て非常に弱いところを見せた。恐らく一番の苦手種目であろう。落下もあり、価値点も低いので点は全く伸びず、最下位がほぼ決定。そしてウクライナはゆかで、ヤロツカはラインオーバーや3回ひねりのひねり不足で9.225に留まる。二種目失敗が続いているコジチは、ゆかは前宙ダブルなどノーミスで通し、9.500をマーク。そして最後のクバシャで締めくくりたかったが、一本目の伸身前宙から即抱え込み前宙ダブルでしりもちをつき、二回半もラインオーバーで8.200に留まった。

トップに立っているアメリカは、非常に危なげなかった。SVが意外と低い為、点は出なかったが、タンブリングはどれも見ごたえがあった。最初のハンフリーはアラビアンダブルから始まり、二本目は屈身月面、最後も3回ひねりという構成で、SV9.7で9.300をマーク。メメルは二本目にテンポ連続からアラビアンダブルという素晴らしい組み合わせを入れてきて、SV9.8で9.400をマーク。そして最後のパターソンは宙返りが全て流れる癖があるのか、冷やりとするものがあったが、月面、アラビアンダブルなど、全てきれいにまとめて9.525(SV9.8)をマーク。少し出すぎた気もするが、これでアメリカは優勝を確定。点に関しては、この出来であれば、他の失敗続きの出来に比べれば十分に点を出す価値もあり、例え通常の採点基準でつけたとしても、問題なく優勝であっただろう。その間、アメリカ選手に対する大歓声が起こっている中演技をしなければいけないオーストラリアは、更に目の前にある初の団体メダルへのプレッシャーとも戦わなければいけなかった。予選では高得点を連発していたが、今回は、各選手が非常に固くなっていた。シリーズ加点が取れないほど、各要素で止まってしまった一人目のダンは、SVを9.4にしてしまい、8.675からスタート。辛い状況となった。二人目のルッソは種目別決勝にも残っているが、後方伸身宙返りでふらつきがでて、9.187に留まる。こうなると最後のスレーターが確実に締めておきたいところだが、前方開脚伸身宙返り+前転跳びの後、もう一つ要素が繋がるところで止まってしまい、やはり硬さが出てしまった。しかし、何とか落下はせずに通し、9.175をマーク。その後のルーマニア、スペインの演技を待つ。

ルーマニアは、伝統的に最後のゆかで強さを見せる場面が多いが、今回はどうか?!一人目のバンは軽快なリズムでE難度の技を次々と決め、得点が期待されたが、SVが9.7に留まり、9.337からのスタートとなった。そして二人目のムンテアヌ。月面、屈身ダブルと順調に決めていたが、三本目のテンポから即3回ひねりでしりもちをつき、SVも一気に下げて8.537に留まった。これでオーストラリアに一気にチャンスが巡ってきたわけだが、最後のポノールは、予選から好調で、このプレッシャーのかかる場面でほぼ完璧に決めて、9.600をマーク。オーストラリアを逆転し、アメリカに次いで二位につける。スペインは、モロが入りの後方開脚伸身宙返り上がりで落下。デ・シモーネも硬い演技で得点を伸ばせず、ゴメスが唯一9点台に乗せるのが精一杯で、メダル争いから後退。

さて、最後に銀メダルをかけて中国が登場。順調に行けば、既に演技を終えているチームの点数と、これまでの差からいって、メダルは確実なはずであったが、実際にはそう簡単にはいかなかった。康欣は、一本目の伸身ダブルはきれいに決めたが、二本目の二回半ひねりで着地が飛ばされてしまい、そして最悪なことに振り付けの中の動きでバランスを崩して手を着いてしまう。見ていて明らかに硬さが出ていた。そして8.825という点にしてしまう。二人目の張楠は、月面と二回半から即伸身前宙はきれいに決め、さすがにまとめてくるかと思われた。しかし、3回ひねりで着地がはじかれてしまい、そして、予選でもそうであったし、アジア大会でも決めが悪かった体操系のところが思わぬ穴であった。まず3回ターンは軸がぶれて回りきれてない感じであった。そして極めつけが二回ターンから抱え込みジャンプ二回ひねりで完全に軸がぶれて、抱え込みジャンプでその軸ぶれの状態で踏み切ることになり、そして手を着いてしまうミス。この部分のこうした失敗は非常に珍しく、一気に点数を下げて8.537としてしまった。この点数を見たオーストラリア応援団から「メダルが取れる!」という声が出だした。最後に登場のリン・リは、9.425以上を出さないといけないという状況に追い込まれた。しかし、こうした状況で自分の演技をするのがやっとという雰囲気で、元々の構成も高得点が望めるものではなく、9.337に留まり、ルーマニア、オーストラリアに抜かされ、オーストラリアと0.074差の四位となってしまった。この間、ロシアの平均台はエジョワがオノディと後転跳び一回ひねりで落下。パブロワはノーミスで通して9.537としたものの、最後のホルキナが途中で乱れ(恐らくカテッテジャンプの部分)8.912に留まった。

こうして、ミスであふれ返らんばかりの試合となった訳だが、男子以上に失敗による順位への影響が出てしまった。男子は、メダルを取った国はほぼ大過失は一つだけなどノーミスに近かった訳だが(アメリカとてモーガン・ハムの跳馬で大過失ではないがミスがあったり)、女子はそれに近かったのはアメリカのみであった。今回のアメリカ女子に関しては、国内選手権チャンピオンのキューペッツが予選終了後、アキレス腱を切ったり、それ以前に、大会直前にハッチが膝を怪我し、ポステルが病気になるなど、ベストメンバーではないにも関わらず、メメルなど、代わりに入った選手たちの素晴らしい活躍が光り、何よりも全種目において弱いところがなかった。それが今回のすごいところではないだろうか。特に女子は四種目しかないので、ルーマニアように、一種目でも極端に苦手種目を作ると勝負にならない。今回はそれを各国痛感したのではないだろうか。