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今日の進行は、決勝進出者を上位から六名ずつ組んで四グループに分かれて行われた。また、団体決勝と違って、アップありで行われたので、選手にとってはありがたかったかもしれない。今回は、予選の段階で、上位に来る可能性の選手にミスが多かったこともあり、必ずしもA班(一位から六位グループ)だけで優勝争いが行われなかった。

第一ローテーション

ドラグレスクは、団体決勝で失敗したゆかからスタートしたが、その失敗した二本目のシリーズで今回は最後を一回半でひねりきれたが、ラインオーバーをしてしまい、最後の新月面を決めたものの、9.550留まった。ガトソンは、膝を以前負傷していたのか、かなり頑丈な器具を膝につけての演技。シリーズ四本のうち、三本を転で終わる、膝への負担が少ない構成で、9.450をマーク。ヨフチェフは交差ひねりで止まってしまい、9.162としてしまった。ヤン・テヨンは二回半+前宙の後が続かず、点を伸ばせず。初の世界チャンピオンを目指す楊威は、コンバインの中のロシアンで足割れがあり、9.587とした。そしてゆかはここから注目選手が続き、ポール・ハムは後方一回半+前宙一回ひねり+前宙転の後がやや乱れて、立った後に後ろに下がったが、最後の伸身ダブルをぴたりと決めて9.625をマーク。一本目の伸身新月面でかなり迫力があったのを買われたようだ。日本勢は同じ班で塚原と冨田が入り、試技順はずっと二人が連続するものとなったが、まず塚原は新伸身月面もまずまず決めて、二本目のシリーズで後ろに一歩下がってしまったが、団体戦と違って安定した着地が続き、9.425(SV9.9)とした。ポール・ハムとは最初の新伸身月面で若干差が出たかなと思えたが果たしてどうなのだろう?冨田は、団体決勝で非常にギリギリの着地となっ一本目の二回半+前宙ハーフ+後方二回ひねりを決めて、さぁ、これで調子を上げろ!と思っていたが、二本目の後方一回半+前方一回+前方一回半を狙ったシリーズの最後が抜けて、宙返りが二つだけとなり、0.5の加点を狙ったところで0.2のみとなり、SVも9.7になってしまい、9.200からのスタートとしてしまった。

一種目を終えて、ポール・ハム、楊威がそれぞれ二位、三位、そして、つり輪で9.637を出したロペスがトップに立った。各種目、得点の出方が全く違うので、ロペスのトップというのはつり輪ということもあり、納得できるものであった。

アジア大会でも冨田はあん馬の落下からスタートしたのだが、今回、完全なミスではないが、この点からどこまで追い上げるのか、そして塚原もとりあえずまずまずのスタートで、残りをうまく乗りこなせていけるのか、まずは大過失がなかったので、かなり希望を持ちながらこの後のローテを見ることができた。

第二ローテーション

つり輪に入ったゾズリアが最後の伸身月面をきれいに決めて、9.637とした。韓国のヤン・テヨンはフロップで乱れてまたも得点を伸ばせず。ヨフチェフは相変わらずの力強い構成で、降りの伸身月面で着地を止めて9.725をマークし追い上げを狙う。ポール・ハムはウゴーニャン、シュピンデル、そして何より交差ひねりがかなり大きく(というか片手に乗りすぎたのか??)、9.700を出し、これで完全に勢いに乗ってきた。楊威は十字倒立系で大いに見せ、降りの伸身ダブルも泊まり、9.625とした。ロペスはカサマツ一回半を決めて9.500をマーク。塚原は落ち着いてウゴーニャンもまとめ、9.675とした。この種目も比較的ミスの多い種目であっただけに、うまくまとめたのは大きかった。そして、冨田はさらによく、ウゴーニャンからのロシアン、フロップも全く危なげなく、恐らくこの種目では今日最高の9.737とした。これでゆかの低い得点を少しでも挽回できた形となった。

二種目を終えて、ポール・ハムがトップに立ち、楊威が二位、そして三位には平行棒で高得点を出していたイェリンベトフが入った。

第三ローテーション

楊威はカサマツ二回ひねりで前に出てしまったが9.627をマーク。価値点が10点というのは、かなり有利であった。ポール・ハムは力技が足りず、価値点も上がらず9.475に留まる。イェリンベトフはコールマンも決めて、9.562と上位をキープ。そして塚原は、つり輪で高得点を挙げている選手と比べると力強さをもう一つ感じなかったが、落ち着いて捌いて、9.550。ロペスは得意の平行棒で着地で一歩動いたが、9.600を出して、メダル争いに残った。実はキューバは、大会期間中に亡命者が二人出るという事件があったのだが、よく落ち着いていたと思う。そして冨田は、力技の連続もきれいで、今日は屈腕の力倒立もあまり揺れがなかったように思われ、9.662を出した。冨田が落ち着いて徐々に上がってきたのはかなり頼もしい。ドラグレスクはあまり得意でないと思われているつり輪で最後の抱え込み新月面を決めて9.550とした。つり輪で高得点を出し追い上げたいゾズリアはローチェで着手から低い状態で、しりもちを着いて、8.975になってしまった。

この段階で楊威がトップに立ち、苦手種目で得点を下げたポール・ハムが二位、そして三位にロペスが入り、日本の塚原&冨田が五位と六位となり、トップの楊威から0.250差として、優勝もまだ圏内である位置につけた。

第四ローテーション

跳馬の冨田はアップでカサマツ一回ひねりをきれいに決めていて、難度を下げるのか?とも思ってしまったが、例えカサマツ一回半にしたとしても、団体予選のようなことはないであろう・・・こう予想できた状態であった。

このローテーションは、メダル争いのロペス、イェリンベトフ、楊威、ポール・ハムがそれぞれ最初の演技者で、ある意味で鍵となるローテとなった。楊威は、アームモリスエ、ヒーリー、棒下宙返りから屈身ベーレ、抱え込みベーレと決めてきてが、9.587と伸びなかった。ロペスは鉄棒でヤマワキを決めてきたが、9.200に留まった。ポール・ハムはユルチェンコ二回半を持っているのだが、アップで失敗したので果たしてどうか?特に緊張感も徐々に高まっていたはずだが、着手の段階でかなり安心できるほど大きさがあり、横に一歩出たが、大過失ではなく、9.537で留まることができた。塚原は価値点の高くないユルチェンコ二回ひねりだが、落ち着いてまとめ、9.437。そし冨田。表示はカサマツ一回半ひねり果たして立つことができるのか?そして着手後、ポール・ハムのときと同様、とりあえず立つ!と思った。しかし、ひねり不足ぎみの着地となり、横にも一歩出て、得点が心配された。しかし、得点は9.462。今回日本の体操は本当に高く評価されている・・・こう思った瞬間であった。そしてドラグレスクはローチェひねりをピタリ決めて、大注目であった観衆の期待に応えた。得点も9.850と今大会でこれまでで最高の得点であった。そして今日は鉄棒でミスが多かったのだが、ポドゴルニはトカチェフ連続の後のギンガーで落下。右肘を落下時に痛めて演技が不可能になってしまった。ヨフチェフは、ヒーリーの後の開脚前宙腕支持でバーに体が乗ってしまい、その後再度演技を繰り返したが、かなり体に影響が出ていたようだった。

この段階で、楊威がポール・ハムに微妙ではあるが0.099の差をつけて首位をキープ。イェリンベトフが三位をキープし、鉄棒で伸びなかったロペスの代わりに塚原、冨田がそれぞれ四位と五位に続いた。日本勢二人がこの位置にいるというのは、今大会、日本男子が本当に強いという証拠である気がした。そして、残る種目、日本勢二人にとってかなり得意であるので、いよいよ優勝を狙って、気を引き締めたいところとなった。

第五ローテーション

団体決勝で、この平行棒で9.800と最高点を出した塚原であったが、アップの段階で棒下宙返りひねりで前に倒れかけてしまった。アップだからどういうことを狙っているのか分からないが、見ている者としては緊張感が高まってしまった。そして演技に入ると、棒下ひねりの倒立の決めがやはり甘かったように思えた。全体的に硬かったようにも思え(というのは見ている本人が緊張していたからそう見えたのか??)、それでも9.687を出して、このローテで各種目最終演技者に回ったメダル争いを行う選手に対し、プレッシャーを与えるものとなった。その後の冨田は、更に落ち着いて演技をして、塚原よりも棒下ひねりの決めが良かったと思えたが、団体決勝で失敗した着地で緊張してしまったのか、今回も後ろに大きく一歩下がり、9.687に留まった。しかし、この種目に関しては、日本選手への評価が本当に高いと思う。塚原には種目別決勝で是非優勝してほしい。さて、ローテ最後のところで、まずロペスがゆかで抱え込み新月面からスタートしたが、組み合わせのところでD+Dの組み合わせであるなど、SVが9.6に留まり、9.012としてしまい、メダル争いからここで後退した。イェリンベトフは、鬼門のあん馬であったが、シバドー移動、ウゴーニャン、ロシアン720度、Eフロップなど、次々と決めて、9.662で乗り切った。彼の最後はつり輪なので、通常でいえばかなり有利に立ったと思えた。平行棒で思わぬ落下をしたヨフチェフはアドラーひねりの後、演技を続けることが出来ずに、途中で演技を終了。5点台としてしまった。鉄棒の楊威は、危なげない演技であったが、これといって大きな見せ場を感じない演技で無難に演技をした印象で、得点も9.612であった(SVを見てない)。そしてポール・ハム。彼も地元観衆の期待がより高まる中、一番気になるところである棒下宙返りのひねりのところでうまく決めて、9.662をマーク。

これで楊威がポール・ハムに差を縮められ、わずか0.049差でトップ。そして三位にはイェリンベトフが残り、塚原が四位、冨田が五位で最終種目を迎えることとなった。塚原とイェリンベトフの差は0.062。冨田とイェリンベトフは0.088差となった。塚原と楊威の差は0.274。優勝を諦めるには早い、非常に僅差の争いとなった。

第六ローテーション

アップでまた気になるところがあった。まず、冨田のアップは非常に落ち着いていた。アップでは必ずしも離れ技を持つ必要ななく、感覚を確認する程度の選手が多いのだが、冨田はコールマンでほぼ問題なく、バータッチができた。そのままアップを終えて、このローテの最初の演技者として、アップ時間の終了を待った。対して塚原はコールマンでバーから遠くなり、やはり気になるのか、再度行った。これは本人もとりあえず満足できたと思われた。さてこの二人のアップの差が本番ではどうなるか??

トップの楊威もやや硬かった。最後の最後、これまでミスが多かった二回半+前宙+前宙一回ひねりを確認したが、二回半+前宙の段階でかなり横にゆがんでいた。あえてその後続けなかったのかは不明だが、本人もこのシリーズがかなりの鍵を握っていると思っていただろう。

そしていよいよ演技スタート。冨田がまず上位選手の先陣を切ったが、かなり素晴らしかった。コールマンも全く危なげなく、そしてその後、彼にとっての鬼門のシリーズを迎える。シュタルダー一回ひねりの後、果たして今日はどうするのかと思われたが、思い切ってシュタルダー一回半ひねりにしてきた。これはかなり素晴らしかった。停滞もなく最後の降り技を向かえ、新月面は着地で一歩動いたが、この緊張感の中で最高の演技だったといえよう。得点も9.687とした。私の近くのアメリカ人からは「低い!」という声が聞かれ、かなり嬉しい瞬間であった。この点数を受けて、上位選手がどうなるか、気になるところであったが、まず三位のイェリンベトフ。力技も振り上げ中水平からナカヤマまで、合計四つの力技を繋げてきたが、SVが10点であったにも関わらず、9.450に留まった。見ていると倒立の決めなどで厳しく減点を受けたと思われた(それでも9.6近くは出ると思われたのだが・・・)。これで、冨田がイェリンベトフを抜いて、更に首位をキープ。最低でも銅メダルを決めた。

さて、その次はトップの楊威。まず一本目の新伸身月面で着地がぴたりと決まり、本人もかなり安心できたのだろう。鬼門の二本目も問題なく、最後の月面さえ決めれば・・・というところで、落ち着いてまとめてきて、演技を終了。月面の前の表情がダイナビジョンにアップで写っていたのだが、本当に緊張して、最後の瞬間に賭けていた。着地後も、審判への挨拶の後、本当にほっとしたのか、しばらく動けなかったのが印象的であった。そして得点・・・9.662。SVが10点。今までの点の出方からして、彼にこれ以上は望めない。やるだけのことはやったと思えた。そして、ポール・ハムの登場。団体決勝では、途中の四つの離れ技の連続で、三つしか行えず、価値点を下げた種目だが、今日もそのようなことがあると、楊威には勝てない。しかも・・・ゲント世界選手権でも、彼は優勝争いをしていたのだが、最後の鉄棒で落下して優勝を逃した。こうして、ハムにとって最後に鉄棒というのは嫌なものであったに違いない。そしていよいよ演技開始。まずコールマン。OK。そして、その次・・・伸身トカチェフ、開脚トカチェフ、閉脚トカチェフ・・・そして・・・ギンガー!持った!これであとは着地を待つのみで、場内は大きな声援&期待。そして彼は伸身新月面をこれ以上ない着地で決めた。雰囲気が最高潮に上がる中、得点は9.775。57.774として楊威を逆転して、最後の塚原が10点を出してようやく同点になるということで、ほぼ優勝を決定。USAコールの連発・・・当然起こった。そしてそれは、最後にまだ塚原が残っているという事実を観衆が忘れているようでもあった。

塚原は本当にやりにくかったと思う。演技直前までUSAコールは残り、日本選手団の声援も十分に届かないほどであった。しかし、逆に演技に入るときには、塚原が果たして何位になるのか、観客の興味は移ったようだ。そして、演技がようやく開始される。コールマン・・・落下!やはり遠かった。もしかしたら、アップ会場から気になっていたのかもしれない。本人にとって、ハムの後のやりにくさが更に影響してしまったのか、本当に残念であった。その後は落ち着いて、最後の伸身新月面をピタリと決めた。得点は8.612。特にコールマンの代わりに離れ技を行った訳でもないので、仕方ない点数であった。

※鉄棒に関しては、背面系やシュタルダー、エンドーなどのひねりで難度を稼ぐ選手が多い中、ハムやネモフのように離れ技の連続でE+Dを取ってくる選手に非常に評価が高くなっていると思われた。個人的には、鉄棒の見せ場はあくまで離れ技なので、この部分の価値が評価されないよりは、見ていて納得できるものがあった。しかし、日本選手のように、基本が出来ている演技にも非常に評価が高いので、正当にジャッジが行われていると思われた。

これで、アメリカは、昨日の女子団体に続き、史上初の男子個人総合チャンピオンを生んだ。地元の大会としては最高の結果となった。そして、負けずに日本も、97年のローザンヌ世界選手権の塚原の銅メダル以来、参加しなかったゲント世界選手権を除いて三大会連続の個人総合メダルとなった。そして、冨田は世界選手権初の個人メダル。これまで海外から注目を浴びていた彼だが、これでようやく実績もついて、五輪に向けてアピールできる状態となった。種目別決勝には今のところ残っていない彼だが、まずは、日本男子の個人メダル獲得の動きの中で素晴らしいスタートを切ったと言えよう。