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男子と同様、女子の個人総合決勝も、今日の進行は、決勝進出者を上位から六名ずつ組んで四グループに分かれて行われた。団体予選のミスで張楠、パターソン、バンがA班に残っていないが、ホルキナ、ゴメス、そして今大会絶好調のメメルがA班に入っており、A班のメンバーを中心とした激しい戦いが予想された。

第一ローテーション

二連覇&トータル三度目の優勝を狙うホルキナが跳馬からのスタートで、ホルキナ跳びで団体戦と同様一歩前に出たが、着地姿勢は高く、9.312からのスタート。ブラジルのエース、イポリトは1本目の伸身ダブルで手を着き、そして、その際に足を痛めたのか(団体予選でも最後を二回ひねりにして技を抜いていたと思うが、あまり足の調子がよくないのか、団体決勝もゆかはやらなかった)、二本目の後、うずくまってしばらく全く動けない状態となってしまった。そして、その後演技を棄権。平均台で種目別決勝に残ったルッソは後転跳び連続から伸身宙返りもきれいに決め、9.262。スレーターはイエーガーの後にダブルスイングをして、その後、パク宙返りでまず高棒に足が当たり、そして結果的に完全に低棒懸垂になった際に、マットに足がついてしまった。得点は8.525に留まり、オー巣トラアリアのエースは、早くも上位争いから姿を消した。アメリカの金メダルの中心的な役割を果たしたメメルは跳馬でユルチェンコ一回半ひねりで9.325。コジチは、ホップターン+車輪一回ひねり+車輪半ひねり大逆手+片手軸大逆手一回ひねり+イエーガー+パク宙返りと、次々と技を繋げて、SVを10点にしたが、得点は9.337に留まった。予選トップのゴメスは、着手がうまく入らなかったようで低い跳躍となり、着地で一歩下がり9.175に留まった。パターソンは段違い平行棒からで、低棒でフットサークル一回ひねりから始まり、シュタルダー一回ひねり+車輪一回半ひねり+車輪一回ひねり+トカチェフ+パク宙返りといった構成で加点を稼ぎ、9.525とした。パブロワはユルチェンコ二回ひねりの着地が止まり9.412とした。平均台のバンは、伸身宙返り一回ひねりで横にぶれたものの、今日は交差ジャンプからのシリーズを、最後に後方伸身開脚宙返りにしてC+C+Cの加点を取り、SVを10点にして9.562に上げた。ヤロツカはルコーニで9.125に留まった。ルーマニア国内チャンピオンのムンテアヌはイエーガーで落下。コーチ(ベルではない)が完全にキャッチしてマットに叩きつけられずにすんだのが、観客に変に注目を浴びてしまった。

そして日本の佐原は、体操系のところでひねりの終わりがやや正確でなく、そして最後は屈身ダブルで手を着いてしまった。SVも9.5にしてしまい、8.437と厳しいスタートとなった。中国の張楠は、一昨日のゆかのミスでメダルを失った団体戦の余韻が心配されたが、得意の平均台はほぼパーフェクトで、減点のしようがない実施。9.700をマークして、トップに立った。スペインのモレノは3回ターン+ポパが軸が正確にならずひねり不足ぎみで、水平二回ターンも難度が取れる実施でなかったがSVを9.9に保ち、9.337とした。今大会のゆかは比較的、減点を甘く見ているシーンが多い。

一種目めを終え、張楠がトップ、二位にバン、三位にパターソン、パブロワが四位となり、ホルキナは八位となった。

第二ローテーション

コジチは平均台でSV9.9(手計算)であったが、単発技が多く、リズムがあまりよくなくなり、9.137に留まった。メメルは得意の段違い平行棒で相変わらずトリッキーな技を次々に決めて、最大の見せ場であるアドラーから背面の前方二回宙返りも決めてきたが、今日はどこで引かれたのか不明だが、昨日までのSVより下がって9.8となり、9.362に留まった。ここである程度の得点を上げておきたかった彼女にすれば、やや期待はずれの点数であったかもしれない。佐原は前転跳び前方屈身半ひねりをピタリと決めて、9.050をマーク。何とか盛り返してきた。バンは今日もタンブリングは決めてきたが、体操系の技が単発でシリーズ加点が取れず、SVが9.8に留まり9.400とした。

パターソンは、一つ一つ非常に丁寧にこなしている印象であったが、目立った停滞もなく、途中のアラビアン宙返りや前宙+羊跳びもきれいに決めて9.612を出した。SVも10点であった。器具系でほぼ完璧に乗り切れたので、気が楽になったようだ。ゴメスは、大逆手車輪一回ひねりからのイエーガーなどを決めてきたが、降り技は、ルール上問題でないものの、後方二回ひねりと、C難度にして9.362(SV10)に留まった。降りがD難度であっても構成上は得点は変わらないが、印象が違っていたのかもしれない。パブロワは、振り跳びに入ろうとして足裏支持になったところでなぜか落下。8.812にして優勝争いから後退。そして、このローテの最大の注目となった張楠のゆか。団体決勝で嫌なミスを連発して、そのことが頭から離れているか、これがかぎとなった。3回ターン、三回ひねり、ねこジャンプの二回ひねりと一回半ひねりの連続、二回ターンから抱え込みジャンプ二回ひねりと、ミスこそ出なかったが、いずれもややひねり不足などが見れた気がした。3回ターンは特に取ってくれるかどうか気になったが、ゆかはやはり甘く、9.412を出した。ドイツのビヤクは、大人びた演技で、タンブリングも前方二回宙返り+前方宙返りといった組み合わせも入れていたが、8.937に留まった。康欣は大逆手車輪一回半ひねりからトカチェフや、大逆手車輪一回ひねりからイエーガー、そして最後は珍しい技で、ほん転から飛び出して後方宙返り(アジア大会でも行った技)を行い、SVを10点にして9.400とした。少し厳しい感じでもあったが、降りの部分で大きさが感じられないものなので、少し仕方ないところか。キューバのゴンサレスは非常に脚力の強いところを見せ、SVも10点にして9.337を出した。

そして問題のホルキナ。団体予選では難度を取ってもらえず、団体決勝ではホルキナ移動が出来ない状態で運がないが、果たしてどこまで上がるか。まずはシュタルダー一回半ひねりからパク宙返り、続けてシュタルダー一回ひねり。ここまで落ち着いてきたところでホルキナ移動が入った。その後も、車輪一回半ひねりからホルキナ飛び越しが入り、降りの月面もピタリと決めて文句なしの演技となった。今日は非常に集中していたように思う。得点はSV10点で9.662。段違い平行棒で今大会初めての9.600オーバー。これで残る種目、更に集中して狙える位置につけた。

二種目を終えて、パターソンがトップに立った。張楠が二位につけ、ホルキナが三位に上がった。バンが四位となり、少し空いてメメルが続き、ゴメスは七位に留まっていた。

第三ローテーション

バンがルコーニで、例に洩れず9.175に留まり、優勝争い、メダル争いから一歩後退。ゴメスは交差ジャンプから抱え込みジャンプ一回ひねりでやや停滞があり、9.212に留まった。ゴメスはこれで得意のゆかを残すのみとなったが、例え高得点でも、上位のミス待ちという厳しい状況となった。パターソンは二回半ひねりから伸身前宙で冷やりとする高さになってしまったが、アラビアンダブルなど、得意なところは決めてきて9.537を出し、最後の跳馬に繋げた。また、キューバのゴンサレスが、種目別決勝にも残った跳馬で、非常に高いユルチェンコ一回半ひねりで着地もほぼ止めて9.375とした。その後の張楠も同じユルチェンコ一回半ひねりだったが、大きさと着地一歩の差で0.250に留まった。ルペネはデフや降りの新月面など、大技が入るダイナミックな構成であったが、裁きに雑なところが多く見られて、9.337に留まった。ヤロツカはアウエルバッハ後転跳びからオノディというあまり他の選手で見られないシリーズも入れてきていたが、価値点が9.7しかなく、9.287に留まった。しかし、何とか上位争いに残った。佐原は、車輪一回ひねりで沿ってしまったが、その他は危なげなく通して、8.887(SV9.5)とした。

ホルキナは、団体決勝で大きなふらつきを見せた種目だが、今回は集中していた。ユルチェンコ上がり(後方伸身開脚宙返り上がり)+後転跳び+後方開脚伸身宙返りに繋げて加点を稼ぎ、その後、後転跳び一回ひねりから後転跳び+コルブト一回ひねりに繋げたかったと思うが、後転跳び一回ひねりで停滞。シリーズ加点の0.2を取ることが出来なかった。しかし、その後は団体決勝でミスしたカテッテジャンプも決め、SV9.8で、9.475とまず無難に乗り越えた。

二種目めであまり点を稼げなかったメメルだが、平均台は更に苦しんだ。ポパ、前宙半ひねりから後転跳びのシリーズはまずまずであったが、前方開脚伸身宙返りからイリュージョンターンにつなげるところで、イリュージョンターンが大きくぐらつき、前方宙返りから羊跳びにつなげるところ硬くなり、そして最後の屈身二回宙返りは大きく前に一歩出て、結果的に価値点が何と9.5まで下がり、8.875となってしまった。団体決勝ではSVが10点を出していたことを考えるとイリュージョンターンのところで減点があり、難度加点と組み合わせ加点で0.2の減点、またターンがそれ以外にないと特別要求もなく0.2、そして羊跳びのところも加点がなくなると0.1の減点となりこれらがSVに影響したと思われた(というのが、回りの観客席の方と話し合った結論・・・)。

これで、パターソンがリードを広げ、二位のホルキナに0.225の差とした。張楠がホルキナに0.087差の三位。そしてバンが四位に留まり、ヤロツカが五位に上がった。残る最終目を考えると、パターソンは最後が跳馬で、ユルチェンコ一回半のはずなので、例え着地を決めても、ノーミスのホルキナには届かないであろうと思われた。先にホルキナが行うので、ホルキナがノーミスで通せるかどうか、ホルキナ自身が自力優勝を狙える位置であった。また、張楠は得意種目であるので、ホルキナと僅差であることを考えると、彼女にも自力優勝のチャンスがある。四位のバンは苦手の段違い平行棒なのでかなり可能性は低かった。

第四ローテーション

まず、佐原は得意の平均台でかなり安定して演技を終え、8.787で演技を終了。ゆかのミスが痛かったが、今までの日本選手にはない力強い演技はアメリカの観衆(というかまたも私の周りだけかもしれないが)に受けていた。

そして、まず優勝争いの先陣を切って、張楠が登場。片手軸の大逆手車輪一回ひねりからイエーガー+パクは非常に素晴らしかったが、低棒移行のところで危うく前に倒れそうになり、膝を曲げてしまった。そして、降り技も、なぜか抱え込み月面にしてしまった。恐らく伸身ダブルは今でもできると思うが、難度が変わらないので特に大きな問題ではないとはいえ、少し気になるところであった。得点は、SV9.9で9.262と思いのほか伸ばせず、演技を終えてしまった。

続いては、張楠の得点の後、優勝の可能性が一番高くなったホルキナ。会場も、地元のパターソンの優勝を阻む可能性がある彼女には非常に大きな声援を送り、別格扱いをしていた。期待はただ一つ「彼女が自分の演技をできるように!」。一気に注目が一点に絞られた。まず最初の二回半から前方一回ひねりの0.2の加点が付く組み合わせは、ぶれもなく、その後、ジャンプにスムーズに繋がった。その次のカテッテジャンプ一回ひねりからジャンプのシリーズのところで、カテッテジャンプがひねり不足で、若干最後にバランスが崩れたように思われ、あまりよくないと思われた。観客もその瞬間は「ミスを取られるかも」という不安がよぎった。その後、振り付けの関係でその後、確かゆかに膝をつく姿勢になったと思うが、それが特にその気持ちを倍増させた。しかし肝心なのはタンブリング。テンポからの3回ひねりはややひねり不足ぎみだが問題なし。そしていよいよラストの屈身ダブル・・・ちょっと低い着地かもしれないが決まった!今回、曲を変えて、どちらかというと技と技の連続でしかなくなった最近のゆかにしては珍しく、彼女の魅力をふんだんに感じる振り付けをうまく入れることができ、それにアメリカの観衆は熱狂した。しかし、得点を待つ間、館内のラジオ放送でもシャノン・ミラーが言っていたようだが、やはり途中のカテッテジャンプからのシリーズが問題で、価値点が下がるかもしれないということは観衆は覚悟していた。しかし、得点は9.675、価値点も10点で計算され、これでパターソンが跳馬で9.450を出さないと優勝できないという状態となった。

予選トップのゴメスがゆかのラストになり、自信にあふれる演技を見せたが、3回ターンはいつもの切れがなかったように思え、そして最後の屈身ダブルはデブレセン同様、一歩前に出る低い着地となったものの、9.537を出し、五位まで上がったが、先に演技を終えていたヤロツカには追いつかず、パターソンを残し、四位以下が確定した。

これまで、ユルチェンコ一回半ひねりの最高点は9.375であった。となると、普通で行けばパターソンの優勝はない。しかし、地元アメリカ。優勝争いで着地が止まったときの点数には十分期待できる。体操をよく知るファンには、パターソンに9.450を出せというのは酷というのが分かっているようで、「とにかく、着地を止めろ」という声が出た。ゴメスの演技が終了するのを待って、そしていよいよ助走・・・着手・・・宙返り・・・着地・・・一歩前に出る。仕方がない。前方系の着地でただでさえ難しいのに、この状態で止めたら本当にすごいとしか言いようがない。得点は9.262に留まったが、これで張楠は上回り、二位に入った。

それにしても、ホルキナに対するアメリカ人の評価は相当高いと思えた。ネモフに対してもそうだが、演技前の拍手はアメリカ選手並である。これだけ人気が出るには、単に大会で活躍するだけでこうなったとは思えないが、やはり選手として大事な何かが彼らにはあるということではないだろうか。アメリカの観衆ですら素直に認められる、真の女王であると実感した。

これでホルキナは、97年のローザンヌ世界選手権で初優勝をして以来、三度目の優勝。そして、前回のゲント世界選手権に続いて二連覇を達成した。二連覇は、70年と74年のツリシチェワ、93年と94年のミラー依頼三人目。24歳でこの偉業を達成したということも、最近の体操では滅多にない素晴らしいものとなった。