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ロンドン五輪・・・得点照会の波紋

予想外に得点照会=Inquiryへの批判がすごいことになっている。

一度出た結果が一変し、メダル圏外の日本が、一気に銀メダルになり、初の団体メダルとなりかけたウクライナが逆に圏外になる・・・。「Sorry for Ukraine Team」という声は海外でかなり聞かれてるが、
日本国内でも同様の声が予想以上に多い。

そもそも、この得点照会のシステムは、アテネ五輪の男子個人総合の問題に遡る。韓国のヤン・テヨンの演技価値点(今でいうD審判が決める)が正しい得点よりも低く採点され、その為にポール・ハム(アメリカ)に僅か0.049差で負けてしまい、ハムが金メダルを獲得。更に同じ韓国のキム・デウンにも負けてヤン・テヨンは銅メダルに終わってしまったのだ。ヤンはCAS(スポーツ仲裁裁判所)にも提訴したが、結局覆ることはなかった。

当時の得点照会に関するルールはもう記憶の中ではっきりしないものであるが、少なくとも同じアテネ五輪での種目別決勝鉄棒におけるロシアのネモフに対する採点問題(http://www.gymfan.com/report/athens/day8-nemov.htm)も影響して、その後のルールではしっかりと明文化され、誤審がないように、あるいは得点照会に正確に対応できるようにシステムが構築された。そのうちの一つがIRCOS(Instant Replay & Information System)と呼ばれるものだ。

各種目の近辺にビデオカメラが設置され、全演技が録画されており、本部席の上級審判はそれをスロー再生するなどして、Dスコアが正確であったか、E審判が極端な採点をしてないか確認する際に利用している。特に体操において、人間の目ではもはや追いつけないことも多いだけに、「ヒューマンエラー」を防ぐためには必要不可欠となった。

さて、今回、「なぜ最初から審判は分からなかったのだ?」という声が多い。確かに、主審はビデオで見直すことは出来ず、本部席の上級審判がその対応をできる訳であるが、一旦D審判、E審判の得点がシステム上で打ち込まれた後、おかしいと思えば上級審判はIRCOSを使って確認し、修正の指示をしているはず。そして、最終的に得点が表示されるのは、上級審判がその得点で問題なしと判断した後である。

日本チームは得点表示後、即座に得点照会している。それはまず主審に対して口頭で行われるもので、それでも納得できない場合には、数万円単位の金額を払った上で上級審判に文書で照会をする。このアクションは相当慣れてていないと即座には出来ないと思える。しかし、上級審判は基本的には表示されている得点に対しては問題なしと判断しているはずであるので、お互いの主張は平行線をたどる可能性が高い。そこで他の上級審判や審判長が介入し、そして上級審判により最終判断が下されるのである。今回でも審判長(技術委員長)のストイカ氏が協議に加わった後、最終的に「内村のDスコアを上げるべき」と判断された。

こうなると審判の質という話にもなるのであるが、これは見る角度により相当見方が異なるケースもあり、こういう事態になったからといって、「レベルが低い」ということには直結しない。また、本部席は種目の前にある訳ではないので判断が難しいケースも多いはず。その為にIRCOSがあるのだが、今回、その活用の前に上級審判の判断があったのではないかと推測する。それくらい、彼のミスへの動揺が審判全体にあったということになるのではなかろうか。

こうしてヒューマンエラーで涙を呑む事態を防ぐ対策が取られているのであるが、それでもウクライナチームのような悲劇が生まれてしまったのは悲しい事実である。かといって、最初に選手・コーチのみにこっそりと点数を教えることは出来ない。例えば、水泳でいえばリレーの引継ぎ違反の判断がなされるまで最終順位の表示がされないように、体操でも得点表示への工夫が必要になると思われた。そう、「まだ公式ではないからちょっと待ってね」というのが分かるように・・・。

採点競技の体操が、より客観的に序列が付くようにアテネ五輪以降様々な工夫がなされてきているが、今回、観客や選手たちに対しての気遣いという意味でも更なる工夫が必要とされたと思う。


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2012年07月31日 21:24に投稿されたエントリーのページです。

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