2012年08月09日

ロンドン五輪・・・男子個人「内村はリオまで負けないか?」

男子個人総合。最後のゆかで手を着くミスがあったものの、結局内村の優勝は下馬評通り、見事に日本の期待に応えてくれた。

内村にとって、大会序盤の不調は未経験のものではない。ロッテルダム世界選手権のときは、肩の痛みの為にポディウム練習で満足な練習が出来ず、終始表情が暗かった。それでも本番では調子を上げて、個人総合二連覇、種目別でもメダルを二つ獲得した。しかし、今回は予選での大過失が二つ、そして団体決勝でもあん馬でミス。ここまで調子が悪い状態を経験したのは恐らく初めてだっただろう。

個人総合決勝では、対抗馬が「今回が内村に勝てる!」と思ったのか、逆にプレッシャーが高くなりすぎて失敗を多く重ねたのに対し、内村は冷静に自分の演技を続けた。団体への意気込みの方が強かっただけに、自分の演技だけに集中し、チームメイトの失敗などにも影響されずに済む個人総合は彼にとってようやく迎えた「自分の本来の力を見せる場」であった。

ノーミスで内村が演技を行うと、トータルスコアは93点を超える。このスコアは今の世界では出す選手はなかなかいない。今回の予選トップの選手でも91点台、そして決勝でも2位のニュエンは91点台。こうなると内村は正に「自分との戦い」に勝てばいいだけになる。

ではその内村に勝つ選手がリオまでに出てくるか?これがこの4年の大きなトピックであろう。しかしながら、例えば日本と同じく個人総合に力を入れるアメリカでもあん馬で極端に質を落としてしまったり、そして何よりプレッシャーに弱い面を見せた。1種目でも極端に弱い面を出してしまえば93点は遠くなる。ドイツも同じで、あん馬、つり輪に不安を残す。ウクライナのククセンコフが比較的そつなく熟してくるが、彼の場合は全体的な底上げが必要になる為、相当な努力が必要になるであろう。

中国辺りが楊威並みの選手をジュニア世代に揃えている可能性があるが、中国の考え方はやはり団体戦重視であり、個人総合は完全に後回しで、逆に団体決勝で3人目の選手を作る為にオールラウンダーを入れているくらいの扱いだ。となると、個人総合のチャンピオンを育てることにそこまで情熱持っているかは疑問だ。しかし、いたらいたで団体戦の戦い方も楽になる。日本と同じくオールラウンダーが決勝で全種目に起用できることになると中国は更にスペシャリストを安心して送り出せる。

海外に目を向けるよりも、日本国内から内村の対抗馬が出る可能性も当然ありうる。今回の代表になった加藤、そして加藤よりも下馬評の高かった野々村。この大学一年生コンビは内村、山室以来の黄金世代といわれる。しかし、この二人に足りないのは「ハート」と思う。内村は高校生の時から堂々とした風格を感じ、それは演技にも出ていた。しかし、二人は「風格」まではいかない。加藤の五輪での演技は素晴らしかったが、内村が北京で演技した時よりも何か足りない。内村ほどの実施の美しさがないことに加え、見る者を圧倒する風格がやはり足りない。インタビューでもどちらかというと紳士的な雰囲気であった。それが悪いという訳ではないが、内村に勝つには弱い印象に思えて仕方ない。

個人的には鹿島以来の「あん馬で稼ぐ」選手が内村の対抗馬として出てきてほしい。内村が失敗を繰り返したからではない。内村の体操を上回るには「究極に美しく見える体操」が必要と思うからだ。鹿島の体操はとにかく美しかった。手足の長さもあり、備えているものが恵まれていた。内村が小柄が故に鹿島よりも美しさの印象が薄い為、その内村を演技前からも上回れる逸材の登場があれば、日本の体操は更に世界一を争える位置に付けることが出来ると思う。しかし、そういった選手たちはえてしてつり輪が弱かったり、ゆか、跳馬が弱かったりする。指導者たちが切磋琢磨し、「世界一美しいオールラウンダー」を養成するシステムを作ってほしい。

この考えがはたして現実味を帯びるかどうか。今月行われる全日本ジュニアに早速注目するのも面白いかもしれない。今の高校生の世代がちょうどリオでは活躍するかもしれない訳で、早速彼らの体操を見てみたい気がする。

ロンドン五輪・・・男子団体選考

「オールラウンダー3人+スペシャリスト2人」の代表を、「オールラウンダー2人+スペシャリスト3人」に・・・。

ロンドン五輪から帰ってきた内村の発言だ。この意見、かなり賛成できるものだ。この彼の意見に更に「オールラウンダー2人が決まってから、スペシャリスト3人の構成を考える」ということを付け加えたい。

日本は選考方法を事前に設定し、明文化することにより、トラブルを避けたがる傾向がある。それは、水泳でも例え順位で1位、2位に入っても、設定タイムを上回れなければ代表入りできないようになっていること通じる。水泳の場合、確かにそれで問題ないかもしれないが、体操の場合、いざ事前に決めた選考方法で決まった選手の顔ぶれを見たときに「あれ、あん馬が苦手な選手ばかりではないか」とか「鉄棒が全員得意だから誰を落とす?」みたいなことになりえる。実際にロンドン五輪ではあん馬、ゆかの3人目がいなかったのが大きなポイントであったように思われる。田中和がその穴を埋める役目に回ったが、今回はその2種目でミス。このミスを見たとき、どこかで無駄に重荷を背負わされていた気がしていたのは少なくないだろう。

今回の選考会で個人総合上位に入っていたのは田中和だ。そして既に実績で決まっていた内村。この二人の弱い種目を補う選手を選ぶように考えれば、まず田中和ではゆか、あん馬、跳馬。この3種目を重点的に、スペシャリスト枠を埋めていく。下記のように各選手の得意種目をまず並べてみる。

・沖口・・・ゆか、跳馬
・山室・・・つり輪、跳馬
・加藤・・・ゆか、跳馬
・野々村・・・跳馬、あん馬、つり輪、平行棒
・小林・・・あん馬、つり輪、跳馬
・田中佑・・・鉄棒、平行棒

まず、埋めたいゆかについては沖口と加藤がいる。しかし、加藤の方が他の種目でも点を稼ぎ、総合でも上位にいる。だからゆかについてはやはり加藤。続いてあん馬については、つり輪、跳馬でも貢献度が高い小林を入れたい。ということで、ゆか加藤、あん馬小林、つり輪小林、跳馬小林とする。

残りは平行棒と鉄棒だが、ここでもゆかとあん馬をなるべくカバーできる選手を選びたい。ここはオールラウンダーの要素もある野々村を選びたい。

こうして並べると内村、田中和、加藤、小林、野々村になり、今回との比較では田中佑、山室と小林と野々村が代わりに入る。具体的に決勝の各種目は

ゆか・・・内村、加藤、野々村
あん馬・・・内村、小林、野々村
つり輪・・・内村、田中、小林 (野々村を内村の代わりに入れてみてもいいかも)
跳馬・・・内村、小林、野々村
平行棒・・・内村、田中、野々村
鉄棒・・・内村、田中、加藤か野々村

となる。

かなり個人的に勝手に並べてみたが、実際にオールラウンダーが決まらないと、それを埋めるべく選手が決まらないわけで、オールラウンダー枠の選手が劣る種目を選考会の得点、出来から判断して、そしてその種目を重点的にスペシャリストを選べば、実際に決勝のメンバーを考えたときに安心して3人を決めることが出来る。

これがシステマティックになれば客観的でいいのかもしれないが、個人的にはそこまでしなくてもと思う。実際に中国男女、アメリカ女子はそういうことにはなっていないと思うし、ある程度選考会の得点を考慮した選考になればそれなりに客観性は保てるはずだ。

2012年08月04日

ロンドン五輪・・・女子団体

アメリカ対ロシア、そして中国対ルーマニア。正に予想通りに金メダル、そして銅メダル争いを展開した。

アメリカもロシアも、まず他国を圧倒的にリードするのが跳馬だ。Dスコア6.5のアマナールは、日本の寺本がようやく戻してきたユルチェンコ2回ひねりのDスコア5.8を0.7も上回る。それが積み重なると跳馬だけで他国を2.1も上回る。アメリカは3人がアマナール、そしてロシアは2人がアマナール。他国は誰もアマナールを行っていない。その中で、アメリカはアマナールの実施を3人ともほぼ完ぺきに行った。一方ロシアは最後のパセカが大きく乱れた。このアメリカのリードはかなりその後の展開を有利にするものであった。

その後、ロシアが段違いで追い上げを見せるものの、平均台ではムスタフィナとコモワに乱れが出て、リードを広げられてしまった。ゆかの得点でアメリカに劣る為、平均台での自滅は更にロシアの選手たちにプレッシャーを与えてしまった。

最後のゆか。ロシア待っていたのはまさかの事態であった。2人目のグリシナが後方1回半ひねりからロンダード繋げるところで大きく乱れ、その後の技に繋げることが出来なかった。この失敗は、特別要求となる「宙返り2つを含めたアクロバットシリーズ」が抜けることにもなり、得点は一気に12点台にまで下がってしまった。

確かに完璧な演技をしても得点的にはアメリカに追いつけなかったかもしれないが、少なくともプレッシャーを与えることは出来たかもしれない。特にレイズマンがアップでアラビアンダブル~伸身前宙で頭から落下しているだけに、プレッシャーがあれば何があるか分からない状況も予想は出来た。

ロシアは2007年の世界選手権の団体決勝でも最後の跳馬で助走が合わずに横にそれようとしたものの、ロイター板を踏んでしまい、演技のやり直しが出来ず0点になってしまうという選手がいた。その0点でロシアは団体のメダルを逃すことになってしまった。当時は銅メダル争いではあったが、失敗の類からしたら信じられないくらいに「まさか」の箇所で起こっており、この2つの失敗は何か通じるものを感じる。若手のプレッシャーに対する弱さはロシアにとって大きな課題になった。

前回はサクラモネが2種目で失敗して金を逃したアメリカ。しかし、それ以降育ってきた選手たちの安定性はかなり特筆すべきものがある。それだけ国内の争いも熾烈であり、精神面でも強い選手が選ばれていることに繋がっているといえよう。個人総合進出を逃した世界チャンピオンのウィーバーも団体決勝では落胆せずに見事に3種目に貢献した。金メダルへの意欲はロシアとの差はないと思うが、その意欲がいいように作用するかどうかが大きな差を生んだのではないだろうか。

ルーマニア対中国も、中国側に大きなミスが出てしまい、中国の自滅でルーマニアが勝った形となった。中国は北京五輪と違い、選手の調子が今一つ上がりきれてない印象もあり、精神面でも戦いきれる状態でない印象だった。一方ルーマニアはヨーロッパチャンピオンのヨルダケが踵の怪我で不調であったが、ポノル、イズバサといったベテラン2人が平均台以降の得意種目をうまくリードして見事な追い上げを見せた。波に乗ると怖いルーマニアの力は、やはりこのオリンピックの舞台で戻ってきた。1976年以降、団体のメダルを死守しているその執念も前回チャンピオンを上回る要素であったかもしれない。

日本女子は、平均台での失敗が結局最後まで影響した。失敗した分、他の種目で追い上げたいところではあったが、Dスコアが他国より劣る中、その追い上げも厳しかった。やはり日本が上位にいくには失敗のない演技を続けることが必須であるのは今大会でもよくわかったし、団体決勝で5位をキープするにはやはりDスコアを上げて攻めた構成を組まないといけないということであろう。日本の長年のライバルであるカナダが今大会で見事に5位に食い込んだのは、前回の日本と同じようなシチュエーションを感じるが、そのカナダの急成長の理由は高難度の技への積極的な取り組みであると思える。質の高い体操の評価はしっかりと受けている日本もそろそろ次のステップに移行する時期に来たのかもしれない。リオに向けて、寺本を中心とした新しい世代がその流れを作り出してほしいと願う。