ロンドン五輪・・・男子個人「内村はリオまで負けないか?」
男子個人総合。最後のゆかで手を着くミスがあったものの、結局内村の優勝は下馬評通り、見事に日本の期待に応えてくれた。
内村にとって、大会序盤の不調は未経験のものではない。ロッテルダム世界選手権のときは、肩の痛みの為にポディウム練習で満足な練習が出来ず、終始表情が暗かった。それでも本番では調子を上げて、個人総合二連覇、種目別でもメダルを二つ獲得した。しかし、今回は予選での大過失が二つ、そして団体決勝でもあん馬でミス。ここまで調子が悪い状態を経験したのは恐らく初めてだっただろう。
個人総合決勝では、対抗馬が「今回が内村に勝てる!」と思ったのか、逆にプレッシャーが高くなりすぎて失敗を多く重ねたのに対し、内村は冷静に自分の演技を続けた。団体への意気込みの方が強かっただけに、自分の演技だけに集中し、チームメイトの失敗などにも影響されずに済む個人総合は彼にとってようやく迎えた「自分の本来の力を見せる場」であった。
ノーミスで内村が演技を行うと、トータルスコアは93点を超える。このスコアは今の世界では出す選手はなかなかいない。今回の予選トップの選手でも91点台、そして決勝でも2位のニュエンは91点台。こうなると内村は正に「自分との戦い」に勝てばいいだけになる。
ではその内村に勝つ選手がリオまでに出てくるか?これがこの4年の大きなトピックであろう。しかしながら、例えば日本と同じく個人総合に力を入れるアメリカでもあん馬で極端に質を落としてしまったり、そして何よりプレッシャーに弱い面を見せた。1種目でも極端に弱い面を出してしまえば93点は遠くなる。ドイツも同じで、あん馬、つり輪に不安を残す。ウクライナのククセンコフが比較的そつなく熟してくるが、彼の場合は全体的な底上げが必要になる為、相当な努力が必要になるであろう。
中国辺りが楊威並みの選手をジュニア世代に揃えている可能性があるが、中国の考え方はやはり団体戦重視であり、個人総合は完全に後回しで、逆に団体決勝で3人目の選手を作る為にオールラウンダーを入れているくらいの扱いだ。となると、個人総合のチャンピオンを育てることにそこまで情熱持っているかは疑問だ。しかし、いたらいたで団体戦の戦い方も楽になる。日本と同じくオールラウンダーが決勝で全種目に起用できることになると中国は更にスペシャリストを安心して送り出せる。
海外に目を向けるよりも、日本国内から内村の対抗馬が出る可能性も当然ありうる。今回の代表になった加藤、そして加藤よりも下馬評の高かった野々村。この大学一年生コンビは内村、山室以来の黄金世代といわれる。しかし、この二人に足りないのは「ハート」と思う。内村は高校生の時から堂々とした風格を感じ、それは演技にも出ていた。しかし、二人は「風格」まではいかない。加藤の五輪での演技は素晴らしかったが、内村が北京で演技した時よりも何か足りない。内村ほどの実施の美しさがないことに加え、見る者を圧倒する風格がやはり足りない。インタビューでもどちらかというと紳士的な雰囲気であった。それが悪いという訳ではないが、内村に勝つには弱い印象に思えて仕方ない。
個人的には鹿島以来の「あん馬で稼ぐ」選手が内村の対抗馬として出てきてほしい。内村が失敗を繰り返したからではない。内村の体操を上回るには「究極に美しく見える体操」が必要と思うからだ。鹿島の体操はとにかく美しかった。手足の長さもあり、備えているものが恵まれていた。内村が小柄が故に鹿島よりも美しさの印象が薄い為、その内村を演技前からも上回れる逸材の登場があれば、日本の体操は更に世界一を争える位置に付けることが出来ると思う。しかし、そういった選手たちはえてしてつり輪が弱かったり、ゆか、跳馬が弱かったりする。指導者たちが切磋琢磨し、「世界一美しいオールラウンダー」を養成するシステムを作ってほしい。
この考えがはたして現実味を帯びるかどうか。今月行われる全日本ジュニアに早速注目するのも面白いかもしれない。今の高校生の世代がちょうどリオでは活躍するかもしれない訳で、早速彼らの体操を見てみたい気がする。